2014年5月19日月曜日

日本人とバルーンアート


バルーンアートは、当初は外国から来た珍しいものというイメージが手伝って、簡単に興味をもってもらえました。いわば舶来品的なイメージで、これは決して悪いことではありませんが、定着して物珍しさがなくなってくると、本質が問われることになります。

日本人としてバルーンアートをやっていることに、どのようなアイデンティティを見いだすべきか。日本のバルーンアートってどうあるべきか。どういった作品がウケて、どういった展開が望ましいのか。日本人の気質、マーケットの状況、それにもまして、なぜ自分がバルーンアートに惹かれ、続けようと思ったのか。このあたりを合わせて考えていくべき問題です。

海外の大会で各国のバルーンアーティストたちとコンテストを競ったり、情報交換をしたりすると、様々なヒントがありました。特にカナダ人でトロントを拠点にしているバルーンアーティストKenton Krugerとの会話は、とても参考になりました。

「イベントでバルーンパフォーマンスをしているとたくさんの人が集まるでしょ。トロントは様々な人種がいる人種のモザイクって呼ばれている街だから、いろんな人種の人が見てくれるんだけどさ、特に中国人と日本人は、食い入るように見るんだよね。彼らは作ってる様子を見るのが好きみたい。白人や黒人はどちらかというと出来たものを見て盛り上がってるけどね。」

一般に日本人は匠の技や緻密な手作業を好むと言われます。Kentonの言っているのは、まさにこういうことなんだろうと思います。「技」として魅せていくというのは、日本においては大事なことなのでしょう。

私がバルーンアートに惹かれたのも、短時間でみるみるうちにかたちを変え、完成するところにあります。そもそも、マジックやジャグリングなどパフォーマンスを見ること、そして自分でもすることが好きだったので、当初はバルーンアートもパフォーマンスとして捉えていました。時間をかけ、多くの本数のバルーンを使った立派な作品を作れるようになってからは、作品性とパフォーマンス性が両立せず、その点は今でも悩みながら続けています。手早く作れる作品は、そのまま作る過程を披露すれば技を見てもらうことができますが、時間のかかる作品は完成品を見て技を感じてもらう必要がありそうです。

次に、バルーンアーティストとしてどういう展開をしていくかについてですが、これはマーケットの状況が密接に関わります。大会で知り合ったアメリカ人とカナダ人のバルーンアーティストたちは平日の夜はレストランでチップで稼ぐ、土日は個人バースデーパーティーを1日3件くらい回る、ときどきエージェントからイベントの話が来るので、条件が合えば引き受ける。そのほかに、企業や団体パーティーの会場装飾とか、地域の図書館で子ども相手にショーをするなんて需要もある。割と安価なギャラ設定で数で稼ぐというのが一般的なようでした。なかにはビジネス展示会のブースで、バルーンアートを駆使しながら楽しく集客し商品説明をしているなんて人もいましたが、これは特殊例ですね。

日本では、マーケットのあり方は相当に違うように思います。チップを払う習慣はありませんし、個人のバースデーパーティーが同じ日に近隣でいくつもあるなんてことはありません。図書館での催しは、たいてい、ボランティアによる○○公演など、なにか楽しいイベントはコストをかけずにやるのが一般的なようですし。やはり、日本での展開は海外での展開とは別物として考えていかないといけませんね。

さて次に、なぜ私がバルーンアートを続けていこうと思ったかについては、ある体験が根底にあります。
目の手術で、わりと大きな手術でしたが、入院をしていたときのことです。隣の病室には、乳児が入院していました。当然、お母さんも一緒に泊まっていました。乳児の目は見えなくなってしまう病気で、治る見込みも少なく、手術に全てをかけるという状態。そのお母さんが、毎日、とても暗かったんです。絶望していて沈んでいるという表現がぴったりのような。この親子のことを不憫に思いました。私の手術も、それなりに大きな手術だったのですが、そんな私でも心配になるくらい、彼女は本当に落ち込んでいました。

何か出来ないかと、ある日、バルーンアートを1つ作って差し上げました。それを受け取った彼女は、たちまち表情が明るくなり、「わぁ、こんな素敵なものをもらったよ!」とお子さんに見せ、とても喜んでいました。そのときの変わりようが、忘れられません。束の間の喜びかも知れませんが、こんなにも人の感情を動かすことができるものかと思いました。

バルーンアートにその力があるのか、それとも、何かしたいという私の気持ちに感じるところがあったのか。そのどちらかというよりも、2つを合わせれば凄い力になるんだと思います。思いを込めて作品を作り、喜んでもらう。とても基本的なことですが、これを続けていきたいと思いました。


こんなことをヒントにしながら、日本人としてのバルーンアートのあるべき姿、自分の活動をどう展開していく、今でも考えつづけています。


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